徒然草(上)

第20段 某とかやいひし世捨人の


 某とかやいひし世捨人の*、「この世のほだし持たらぬ身に*、ただ、空の名残のみぞ惜しき*」と言ひしこそ、まことに、さも覚えぬべけれ*

某とかやいひし世捨人の: 何とかいう名前の仏門に入った人が、。

この世のほだし持たらぬ身に:「ほだし」は「絆し」で自由を束縛するものの意。ここでは、仏門に入って世俗の縛りから解放されたことをいう。

空の名残のみぞ惜しき:せっかく、世間の束縛を逃れたというのに、死ぬにあたってこの美しい空が見られなくなるのだけは心残りだ。西行の歌「いつか我この世の空をへだたらんあはれあはれと月を思ひて」(『山家集』) などをイメージして。

まことに、さも覚えぬべけれ:げにもっともだ。


 すべてを放棄した人間にとって最後に執着するのは自然の美しさとの決別だという。心しておこう!


 なにがしとかやいいしよすてびとの、「このよのほだしもたらぬみに、ただ、そらのなごりのみぞおしき」といいしこそ、まことに、さもおぼえぬべけれ。