阿羅野

  巻之六  雑

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曠野集 巻之六

   

  

年中行事内十二句            荷兮

供屠蘇白散
いはけなやとそなめ初る人次第

春日祭
としごとに鳥居の藤のつぼみ哉

石清水臨時祭
沓音もしづかにかざすさくら哉

潅佛
けふの日やついでに洗ふ佛達

端午
おも痩て葵付たる髪薄し

施米
うち明てほどこす米ぞ虫臭き

乞巧奠
わか菜より七夕草ぞ覺えよき

駒迎
爪髪も旅のすがたやこまむかえ

撰虫
草の葉や足のおれたるきりぎりす

十月衣更
玉しきの衣かへよとかへり花

五節
舞姫に幾たび指を折にけり

追難
おはれてや脇にはづるゝ鬼の面

  詩題十六句             野水

今日不知誰計會 春風春水一時来
氷ゐし添水またなる春の風

白片落梅浮澗水
水鳥のはしに付たる梅白し

春来無伴閑遊少
花賣に留主たのまるゝ隣哉

花下忘歸因美景
寝入なばもの引きよせよ花の下

留春春不留 春歸人寂莫
行春もこゝろへがほの野寺かな

厳(微)風吹袂衣 不寒復不熱
綿脱は松かぜ聞に行ころか

池晩蓮芳謝
蓮の香も行水したる氣色哉

暑月貧家何処有 客来唯贈北窓風
涼めとて切ぬきにけり北のまど

大底四時心惣苦 就中斷腸是秋天
雪の旅それらではなし秋の空

夜来風雨後 秋気颯然新
秋の雨はれて瓜よぶ人もなし

遅々鐘漏初夜長 耿々星河欲曙天
ひとしきりひだるうなりて夜ぞ長き

残影燈閇牆 斜光月穿牖
獨り寐や泣たる貌にまどの月

万物秋霜能懐色
白菊や素顔で見むを秋の霜

十月江南天気好 可憐冬景似春美
こがらしもしばし息つく小春哉

寂莫深夜長 残厂雪中聞
鉢たゝき出もこぬむらや雪のかり

白頭夜礼佛名経
佛名の礼に腰懐く白髪哉

禪閤の撰びのこし給ひしも、さすがにお
かしくて
               舟泉  

鋸□目立
かげろうふの夕日にいたきつぶり哉

附木突
五月闇水鶏ではなし人の家

鉤瓶縄打
かへるさや酒のみによる秋の里

糊賣
あさ露のぎぼう折けむつくもがみ

馬糞掻
こがらしの松の葉かきとつれ立て

   李夫人              越人

魂在何許香煙引到焚(香)處
かげろふの抱つけばわがころも哉

  楊貴妃

雲髩 半偏新睡覺 花冠不整下堂(來)
はる風に帯ゆるみたる寐貌哉

  昭陽人

小頭鞋履窄衣裳 黛点眉々細長
外人不見々應笑
もの數寄やむかしの春の儘ならん

  西施

宮中拾得娥眉斧 不獻吾君是愛君
花ながら植かへらるゝ牡丹かな

  王照君

玉貌風沙膝(勝)畫圖
よの木にもまぎれぬ冬の柳哉

一日留主をする事侍りて

寐やの蚊や御佛供燒火に出て行


杜若生ん繪書の來る日哉


講釈の眠りにつかふ扇哉


水あびよ藍干上を踏ずとも


蝉の音に武家の夕食過にけり


五月雨や鶏とまるはね作り

所にありて生をたつ事是非なし
山(豸偏に犬)獣
魔笛の上手を尽すあはれさよ     樹水

野鳥
(鴫)突の行影長き日あし哉     兒竹

里虫
枝ながら虫うりに行蜀漆かな      含呫

海魚
おもしろと鰯引けり盆の月       同

牛馬四足是謂天 落馬首穿牛鼻是謂人
一方は梅さく桃の継木かな       越人

藏舟於壑 藏山於澤 謂之固 然而夜半有々力者 負之而走
からながら師走の市にうるさヾい

絶聖棄知 大盗乃止
七夕よ物かすこともなきむかし

鋭者夭
散はてゝ跡なきものは花火哉      桂夕

鈍者壽
鶏頭の雪になる迄紅かな        市山

藤房
ほとゝぎす鳴やむ時をしりにけり     一井

師走
うつくしく人にみらるゝ荊哉      長虹

一休
いろいろのかたちおかしや月の雲    湍水

法然
鳴聲のつくろひもなきうづら哉     鼠彈

山岩
おくやまは霰に減るか岩の門      湍水

海岩
苔とりし跡には土もなかりけり      同


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