芭蕉db

笈の小文

(露沾亭餞別会)


時は冬よしのをこめん旅のつと

(ときはふゆ よしのをこめん たびのつと)

 この句は、露沾公*より下し給はらせ侍りけるを、はなむけの初として、旧友、親疎、門人等、あるは詩歌文章をもて訪ひ*、或は草鞋の料*を包て志を見す。かの三月の糧を集*に力を入ず。紙布・綿小*などいふもの帽子したうづ*やうのもの、心々に送りつどひて、霜雪の寒苦をいとふに心なし*。あるは小船をうかべ、別墅にまうけし*、草庵に酒肴携来たりて行衛を祝し、名残をおしみなどするこそ、ゆへある人の首途するにも似たりと*、いと物めかしく覺えられけれ。

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