竹助殿：曲水の息子で、この頃はやんちゃの盛りだったようだが、元禄10年に夭折する。曲水が可愛がっていたのに、前便で息子のことが触れていないことから、この頃すでに病弱であったか？

御歳旦三つ物：芭蕉の歳旦句のことで、「三つ物」とは、歳旦帖を「発句・脇・第三」と３句を連句の形式としたもの。

年々は口にまかせ心に浮かぶばかりに申し捨て候へども：今までは、あまり気を入れて作句するようなことはなかったが、もはやこれが歳旦の最後かと思うようになって、気を入れて作っている、というのである。

幻住庵上葺：「上葺」は＜じょうしゅう＞と読む。幻住庵の屋根を葺きかえること。なお、幻住庵は曲水の所有になる。

浮世の沙汰少しも遠きはこの山のみと：濁りきった浮世とは対極の位置にいるのは、あの国分山だけだとおもう。

三等に相見え候：いま世間の俳諧界を見るにどうも3種類に分類できるようだ、というのである。その1は、点取り俳諧にうつつを抜かして歩く者達。おかげで点者の宗匠達の生活が潤っている。第2は、金持ちの旦那衆で、吉原辺りの悪所に行くよりは見栄えもよく、点取りと言っても生活のためではなく、結果宗匠を食わしているという意味では一種の徳にもなる。そして第3に、曲水達のようにしっかり精進しようとしている少ないながらも一群の者。

店主：＜たなぬし＞と読む。点取り俳諧の行われる会場を提供する食い物屋などを指す。ショバ代の儲けがあったのであろう。

目に立つ慰みは：人の目に付いて評判になるような遊び。悪所通いなどを指す。

人ごと言はんにはしかじ：他人の噂話などするのもどうかと、の意。

線香五分の間に工夫をめぐらし：線香が半寸燃える間に一巻を完成する早業吟詠。

酒を飽くまでにして：酒を飽きるまで飲むこと。

道の建立の一筋：俳諧道にとってまんざら悪いばかりではない、多少の貢献もしているのである。

十の指伏さず：俳諧の道をしっかり精進しながら歩むものは、10人とは居ないのではないか、の意。

路通ことは、大坂にて還俗：路通についてWho'sWho参照。

不通仕るまじく候：「不通」は絶交すること。路通を破門するほどのことも無い、というのである。路通は素行が悪く、芭蕉にとっては不肖の弟子であった。

俗に成りてなりとも：還俗してまでも俳諧発展の役に立とうというのなら、以前の乞食時代よりはましである。