万の道の人*、たとひ不堪なりといへども*、堪能の非家の人に並ぶ時*、必ず勝る事は、弛みなく慎みて軽々しくせぬと、偏へに自由なるとの等しからぬなり。
芸能・所作のみにあらず、大方の振舞・心遣ひも*、愚かにして慎めるは、得の本なり*。巧みにして欲しきまゝなるは、失の本なり*。
万の道の人:各専門分野におけるプロ。 この場合、家伝のプロのこと。
たとひ不堪なりといへども:「不堪<ふかん>」は下手の意。
堪能の非家の人に並ぶ時:上手 だが、家伝のプロではないいわゆる「素人」と共に芸事をしたとき。
芸能・所作のみにあらず、大方の振舞・心遣ひも:芸や技だけでなく、 そのときの振舞とか心づかいど。
愚かにして慎めるは、得の本なり:下手であっても慎み深ければやがて成功するであろう。
巧みにして欲しきまゝなるは、失の本なり:上手だが慎みを欠くのは失敗のもととなる。
「巧みにして欲しきまゝなるは、失の本なり」 というが、今日では「不堪にして欲しきまゝなるは、成功の本なり」ではないか??
よろずのみちのひと、たといふかんなりといえども、かんのうのひかのひとにならぶとき、かならずまさることは、たゆみなくつつしみてかろがろしくせぬと、ひとえにじゆうなるとのひとしからぬなり。
げいのう・しょさのみにあらず、おおかたのふるまい・こころづかいも、おろかにしてつつしめるは、とくのもとなり。たくみにしてほしきままなるは、しつのもとなり。