S42
前あやのねまきにうつる日の影
なくなくも小さきわらぢもとめかね 去來此前出て座中暫く付あぐみたり*。先師曰、能上臈の旅なるべし。やがて此句を付*。好春曰、上人の旅ときゝて言下に句出たり。蕉門の徒練各別也*。
此前出て座中暫く付あぐみたり:「あやのねまきにうつる日の影」という前句に、座の皆に付句が考案できずに困っていたところ、芭蕉は、これは「能上臈の旅なるべし<よきじょうろうのたびなるべし>=身分の高い女性の旅を詠っているのだろう」と言った。
やがて此句を付:芭蕉のヒントを受けたら即座に私去来がこの句「なくなくも小さきわらぢもとめかね」を付けた。すなわち前句は上臈の女房の旅の宿での上品な寝覚め。しかし、今日歩いていく旅のために足に優しい草鞋を求めなくてはならない。それなのになかなかお姫さまのおみ足にフィットしそうな良い履物が見つからない付き人の苦労。
好春曰、上人の旅ときゝて言下に句出たり。蕉門の徒練各也:これを見ていた好春は、「上人の旅ときゝて言下に句出たり。蕉門の徒練各別也<うわびとのたびとききてげんかにくいでたり。しょうもんのと れん かくべつなり>」という。つまり、芭蕉の「やんごとなき人の旅」というヒントにすぐに応えて、すぐにこういう良い付句が出てくるところが我が一門の力量の優れたところだ、と自画自賛したというのだが、自画自賛しているのは去来自身である。