S39
妻呼雉子の身をほそうする 去來初ハ雉子のうろたへてなく也。先師曰、去來かくばかりの事をしらずや。凡句にハ姿といふ物有*。同じ事をかくいへバすがた出來る物をと也。
妻呼雉子の身をほそうする:この句もはじめは「妻呼雉子の うろたえて啼く」だった。これを見て芭蕉は言った。「去来ともあろう者がこんな簡単なことを知らないか?」。
凡句にハ姿といふ物有:<およそくにはすがたというものあり>。雉子が「うろたえる」というのはどういう姿なのか分からない。観念的な表現に過ぎない。妻を呼ぶときに雉子が「身を細めて」呼ぶとすれば、こういえば句の姿が見えてくるではないか。