S10
面梶よ明石のとまり時鳥
目次へ
面梶よ明石のとまり時鳥 野水 猿ミの撰の時、去來曰、此句ハ先師の野をよこに馬引きむけよと同前也*。入集すべからず。先師曰 、明石の時鳥といへるもよし。來曰、明石の時鳥はしらず。一句たゞ馬と舟とかえ侍るのみ。句主の手柄なし。先師曰、句の働におゐてハ一歩も動かず。明石を取柄に入れば入れなん。撰者の心なるべしと也*。終に是をのぞき侍る。
面梶よ明石のとまり時鳥 野水
猿ミの撰の時、去來曰、此句ハ先師の野をよこに馬引きむけよと同前也*。入集すべからず。先師曰 、明石の時鳥といへるもよし。來曰、明石の時鳥はしらず。一句たゞ馬と舟とかえ侍るのみ。句主の手柄なし。先師曰、句の働におゐてハ一歩も動かず。明石を取柄に入れば入れなん。撰者の心なるべしと也*。終に是をのぞき侍る。
同前也:「面梶よ明石のとまり時鳥 」の「面梶」は「面舵」。船首を右へ向けること。この句が芭蕉の『奥の細道』の句、「野をよこに馬引きむけよ」に酷似していることがここでの論争。「馬引き向けよ」と「面舵」は馬と船の違いだけだというのが去来の主張。
撰者の心なるべしと也:そういう去来の主張に対して、芭蕉は「明石のほととぎす」は斬新だと主張したが、最終的には選者がどう感ずるかだ、として、去来に屈服し、最終的にこれを『猿蓑』に入集させなかった。