D37
前はつのいのこに丁どしぐるゝ
生鯛のひちひちするをだいにのせ
どこへ行やらうらの三介
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- 前はつのいのこに丁どしぐるゝ*
生鯛のひちひちするをだいにのせ
どこへ行やらうらの三介
去來曰、此付句臺にのせてといへる處、いのこの祝儀と極めて此分過たり*。やはりひちひちとしてはねかへりなどあらまほし。しからバ次の付句までもよからん。かゝる處より手おもくなれり。惣て一句に謂盡したるハあとあと付がたき物なり*。
- 「はつのいのこに丁どしぐる」:「初の亥の(日の)子に丁度時雨るゝ」のこと。「初亥の子の日」とは旧暦10月の最初の亥の日のことで、この日が初時雨が来るといわれていた。
- 去來曰、此付句臺にのせてといへる處、いのこの祝儀と極めて此分過たり:この付句は生きた鯛を「台に載せ」とまで言ってしまっているから、これは祝儀の鯛だと限定されてしまう。つまり、確実性が高く曖昧さが無い。次につけるのが難しくなってしまう。せめて、「ぴちpちとして跳ね返り」ぐらいにしておいてくれればよいものを。ここまで附けられてしまうと、苦し紛れに「どこへ行くやらうらの三介」ぐらいしか言えないではないか。
- 惣て一句に謂盡したるハあとあと付がたき物なり:連歌というものは、一句を言い尽くされてしまうと、それに付けるのが難しくなる。曖昧さを残しておいて貰わないと会が進まない。