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應々といへどたゝくや雪のかど
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- 應々といへどたゝくや雪のかど 去來
丈艸曰、此句不易にして流行のたゞ中を得たり*。支考曰、いかにしてかく安き筋よりハ入らるゝや*。正秀曰、たゞ先師の聞たまハざるを恨るのミ*。曲翠曰、句の善悪をいハず、當時作セん人を覺えず*。其角曰、眞ノ雪門也*。
許六曰、尤好句也。いまだ十分ならず*。露川曰、五文字妙也*。去來曰、人々の評又おのおの其位よりいづ。此句ハ先師遷化の冬の句也。その比同門の人々も難しと、おもへり。今ハ自他ともに此場にとゞまらず*。
- 應々といへどたゝくや雪のかど:門を誰かがさかんに叩いて、開けてくれといっている。中から「おうおう」と返事はするのだが、客はやめず門を叩くのである。寒さの極致にいる客と、家の中でぬくぬくとしていてそれだけに外へ出て寒くなりたくない家人。まあどうせ、気安い気の置けない客であろうと、中でも外でもそう思っているふしがある。二人の本音と二人の暗黙の関係がほほえましい名句。
- 丈艸曰、此句不易にして流行のたゞ中を得たり:丈草は「これぞ不易にして流行の句だ」と評価した。
- 支考曰、いかにしてかく安き筋よりハ入らるゝや:支考は「どうすればこんなに平明に作句できたのでしょうか」と言い、。
- 正秀曰、たゞ先師の聞たまハざるを恨るのミ:正秀は、「先師芭蕉に聞かせたかった句だ。それが悲しい」とまで言った。
- 曲翠曰、句の善悪をいハず、當時作セん人を覺えず:曲水は「句の善悪ではなくて、現在この句が作れるのは去来をおいてないなあ」と言った。
- 其角曰、眞ノ雪門也:其角は「是が本当の雪の門だね」と言った。
- 許六曰、尤好句也。いまだ十分ならず:許六は「好い句だ、だが完全ではない、もっとよくなくてはいけない」と言い、。
- 露川曰、五文字妙也:露川は「上五が良い」と言った。
- 去來曰、人々の評又おのおの其位よりいづ。此句ハ先師遷化の冬の句也。その比同門の人々も難しと、おもへり。今ハ自他ともに此場にとゞまらず:私は「人々はそれぞれに自分の能力才能から評論した」と思った。だが、この作句時期は芭蕉が亡くなってすぐの冬だったのだが、あの頃はみんなこんな風にこの句を見て「軽み」は難しいと思っていたのだが、今ではもうはるかにみんな進歩している。