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馬の耳すぼめて寒し梨子の花
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馬の耳すぼめて寒し梨子の花 支考
去來曰、馬の耳すぼめて寒しとハ我もいへり。梨の花とよせらるゝ事妙也*。支考曰、何のかたき事か有らん。吾子の如く、かしらより一すじに謂くださん社難けれと論ず*。曲翠曰
、二子互に得處を易しとし、不得處を難しとす。其論共に尤也。しかれども惣體を謂バ、一すじに謂下さんハ難かるべし*。來曰、翠亦得られざる故也。凡修行ハ我が得處を養ひ、不得處を學バゞ、次第にすゝミなん*。得處になづんで外をわすれバ、終に巧を成すべからず。
- 去來曰、馬の耳すぼめて寒しとハ我もいへり。梨の花とよせらるゝ事妙也:去来は、「馬の耳すぼめて寒し」とまでなら私にも作れるが、「梨の花」と下五を入れるのはできないなぁ。去来なら「馬の耳すぼめて寒し夜の月」となったかも???
- 支考曰、何のかたき事か有らん。吾子の如く、かしらより一すじに謂くださん社難けれと論ず:支考は、何も難しいことは無いです。去来のように一気に読み下す才能の方が遥かに難しいと言った。
- 曲翠曰
、二子互に得處を易しとし、不得處を難しとす。其論共に尤也。しかれども惣體を謂バ、一すじに謂下さんハ難かるべし:<きょくすいいわく、にしたがいにえどころをやすしとし、えざるところをかたしとす。そのろんともにもっともなり。しかれどもそうたいをいわば、ひとすじにいいくださんはかたかるべし>。去来も支考もお互いに得意のところを簡単といい、不得意のことを難しいという。実に尤もなことだが、しかし一筋に読み出すのがなんといっても一番難しいね、と言った。
- 來曰、翠亦得られざる故也。凡修行ハ我が得處を養ひ、不得處を學バゞ、次第にすゝミなん:そこで、最後に去来が言った、「曲水も要するに自分の不得手なところを難しいと言っているのであろうが。およそ修業というのは自分の得意は得意としておいて、なお不得意を克服していけば、進歩するということだよ」と。