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芭蕉DB
野ざらし紀行
(大井川)
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大井川越る日*は、終日雨降ければ、
秋の日の雨江戸に指おらん大井川 ちり
(あきのひのあめ えどにゆびおらん おおいがわ)
馬上吟
(みちのべの むくげはうまに くわれけり)
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表紙 年表
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道のべの木槿は馬にくはれけり
芭蕉は馬の上。前方に槿の花が咲いている。芭蕉の目はここに放心したように吸い付けられている。世界はただ一輪の槿の花だけしかない。とそのとき、それまで彼の視界には全くなかった馬の長い口がひょこっと現れて、瞬間槿の花が消えていた。消え去った槿の鮮やかな白さが残像として前より強烈に瞼に映じている。芭蕉、中期の最高傑作の一句。
ムクゲは、「キハチス」とも言う。朝顔に似た花をつける。朝に咲いて夕方には萎んで落ちる。
木槿の句碑(牛久市森田武さん撮影)
大井川越ゆる日:日にちは明確ではないが、雨の大井川で足止めを食ったかもしれない。千里の句には、雨の大井川とは知らない江戸の知己たちは、今日あたりもう大井川を渡ったことだろうと指を折りながら日数を数えて噂しているが、どっこいこっちは未だだというニュアンスが残っている。