芭蕉DB

野ざらし紀行

(小夜の中山)


 廿日餘の月かすかに見えて、山の根際いとくらきに、馬上に鞭をたれて、数里いまだ鶏鳴ならず。杜牧が早行の残夢*、小夜の中山*に至りて忽驚く*

馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり

(うまにねて ざんむつきとおし ちゃのけぶり)


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表紙 年表


馬に寝て残夢月遠し茶のけぶり

 杜牧の詩に追加したものといえば、静岡名産「茶のけぶり」だけである。類型に堕しているものの、「茶のけぶり」で救われてもいる。西行ゆかりの歌枕「小夜の中山」が過度に力を入れさせたか。
 なお、『三冊子』には、

馬に寝て残夢残月茶の煙

馬上眠からんとして残夢残月茶の煙

とある。さらにまた、『真蹟懐紙』には、
   夜深に宿を出でて明けんとせ
   しほどに、杜牧が馬鞍の吟を
   おもふ

馬上落ちんとして残夢残月茶の煙

とある。これが現存する初案である。
 延宝4年の夏には、ここで「命なりわづかの笠の下涼み」と詠んでいる。


「馬に寝て・・」の句碑(写真提供:牛久市森田武さん)