深川芭蕉庵から、宛先不明の書簡。この宛先人は闘病生活をした人であること、佛頂和尚と親交のあること、木免の句を作っていること、などが分かるが、特定できない。日付を欠くが、正秀の「三つ物」の話題があることから元禄7年で、話題からして芭蕉は深川にいることから5月以前と知られる。
早春、佛頂和尚へ御状被レ遣候を則愚庵為レ持被レ越:<そうしゅん、ぶっちょうおしょうへごじょうつかわされそうろうをそくぐあんへもたされこされ>と読む。佛頂和尚は芭蕉参禅の師。深川芭蕉庵近くに居住していた。
木免の角あるけしき先感心仕候上:<みみづくのつのあるけしきかんしんつかまつりそうろううえ>。木免の角という主題の句をこの書簡の受取人は作ったのであろう。
病床に病と組で勝負を御あらそひ、終に大眼悟哲之勢ひ、驚入奉レ存候:<びょうしょうにやまいとくんでしょうぶをおんあらそい、ついにたいがんごてつのいきおい、おどろきいりぞんじたてまつりそうろう>と読む。この受取人は、闘病生活を送り病に勝って本復し、かつ良い句を作るようにさえなったのであろう。
和尚之肝膈いまだしかと探られず候間、重而評判可二申遣一候:<おしょうのかんかく・・、かさねてひょうばんもうしつかわすべくそうろう>と読む。肝膈は心情の意。和尚の気持ちがわからないのでまたお話してみましょう、というのだが意味不明。
和尚にも旧臘は寒ぬるく候故、御持病も心能:<おしょうにもきゅうろうはかんぬるくそうとうゆえ、おじびょうもこころよく>と読む。昨年はあまり寒くなかったので和尚の持病も酷くなく、の意。
大道の咄し山々、俳諧に而至二半夜一候:<たいどうのはなしやまやま、はいかいにてはんやいたりそうろう>。禅の仏道の話や、俳諧に深夜まで熱中したりしました、の意。
褒美之旨正秀へ申遣候間、除レ筆候:<ほうびのむねまさひでへもうしつかわしそうろうかん、ふでをのぞきそうろう>。正秀に誉め言葉を送りますので、これにて失礼致します、の意。