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芭蕉db
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小春宛書簡
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(元禄3年6月20日)
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書簡集/年表/Who'sWho/basho
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何処*持参の芳簡落手、御無事の旨、珍重に存じ候。類火の難*、御のがれ候由、これまた仕合せ申し尽くしがたく候。残生*いまだ漂白やまず、湖水のほとりに夏をいとひ候*。なほ、どち風に身をまかすべきやと、秋立つころを待ちかけ候*。且つ、両御句珍重。中にも「芹売の十銭」*、生涯かろきほど、わが世間に似たれば、感慨少なからず候。口質*他に越え候あひだ、いよいよ風情御心にかけらるべく候。
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愚句、
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暑気に痛み候て、早筆に及び候。
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季夏廿日
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小春雅丈 ばせを
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これも、『幻住庵記』執筆中に、金沢の門人小春に宛てた書簡。小春の手紙への返事だが、小春の手紙を持参したのは何処<かしょ>であった。何処は、小春と同業の薬種商人同士であったから、たまたま金沢で商売上小春に会ったとき、この書簡をあずかってきたのであろう。芭蕉47歳。
- 何処:Who'sWho参照。このように何処は金沢と大坂の間を頻繁に往復していた。
- 類火の難:金沢では元禄3年3月16日(ちょうど芭蕉が金沢を通過した半年後)に大火があり、市全域が焼失した。
- 残生:余生の意だが、ここでは芭蕉自身を指している
。
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湖水のほとりに夏をいとひ候:幻住庵に隠遁している、の意。
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どち風に身をまかすべきやと、秋立つころを待ちかけ候:西か東かどちらに吹く風に任せて旅に出るか、秋風の立つのを待っております。
- 「芹売の十銭」:小春の「十銭を得て芹売の帰りけり」を指す。この芹売りは、清貧の生活を送っているのであろうが、それが芭蕉の生活態度と通底するだけに感慨を催したというのである。
- 口質:俳句の語り口・表現力の意。