伊賀から名古屋熱田の門人露川に宛てた書簡。露川は芭蕉と同じ伊賀を郷里とする同郷人であった。芭蕉は、この段階でも来年正月の予定を約束しているから、死の予感は無かったのである。
熱田鴎白与風預二御尋一候而、御噂承、珍重令レ存候:<あつたおうはくふとおたずねにあづかりそうろうて、おうわさうけたまわり、ちんちょうぞんぜしめそうろう>と読む。鴎白は熱田の俳人。その鴎白が訪ねてきて会いましたときに、あなたの噂を聞きました。大変楽しく聞きました、の意。
先いつぞや佐夜の泊り、殊之外之草臥故、染々共不レ得二御意一、御思召残念之至りに令レ存候:<・・ことのほかのくたびれゆえ、しみじみともぎょいをえず、おぼしめしざんねんのいたりにぞんぜしめそうろう>と読む。この年5月25日西上の旅の途次芭蕉は佐夜の泊りで素覧・左次と三吟半歌仙を巻いたが、そのときあまりの疲労に露川に会えずに残念だったというのである。
愈風雅無二間断一御勤被レ成候由、感心申事に御座候:<いよいよふうがかんだんなくおつとめなされそうろうよし、かんしんもうすことにござそうろう>と読む。あなたはその後も俳諧の道に精進しておられる由、うれしいことです、の意。
又いつやらの便りに御連札、並たばこ一箱被レ懸二芳情一、遠方御厚志不レ浅義(儀)、忝令レ存候:<かつまた・・ごれんさつ、ならびにたばこひとはこほうじょうにかけられ、えんぽうごこうしあさからざるぎ、かたじけなくぞんぜしめそうろう>と読む。連札は何人かの連名の手紙のこと。それにタバコを一箱くれたのであろう。
拙者盆より旧里に逗留罷有、伊勢より支考が来ヲ待居申候:<せっしゃぼんよりきゅうりにとうりゅうまかりあり、いせよりしこうがくるをまちおりもうしそうろう>と読む。芭蕉は盂蘭盆に帰省し、この手紙を書いているが、伊勢から支考が来ることになったらしい。こうして芭蕉が伊勢に行くのではなく支考の方が伊賀にやってくることになったらしいのである。この後、支考は芭蕉の死まで同伴することとなった。運命的な間柄であることがよく分かる。
追付他歩致、冬押造(迫)候而、越年に又旧里へ可レ帰覚悟に御座候:<おっつけたほいたし、ふゆおしせまって、えつねんにまたきゅうりへかえるべきかくごにござそうろう>と読む。しばらく旅に出た後で年が押しつまってからまた伊賀に帰ってこようと考えているというのだが。
正月は必貴様御在所へ御出可レ被レ成候。其節緩々可レ得二御意一候:<しょうがつはかならずきさまございしょへおいでなさるべくそうろう。そのせつゆるゆるぎょいをうべくそうろう>。そして正月になったら、あなたの郷里伊賀の友生に参りますので、あなたもそこへやってきて、そちらでゆっくりとお話をしましょう、の意。
尚々先日御状、御発句共逐二一覧一候:<なおなおせんじつごじょう、ごほっくどもいちらんをとげそうろう>と読む。なお、過日お手紙と共にあなたの発句を拝見しました。
重而ながら便りに委可レ申二進之一候:<かさねてながらたよりにくわしくしんじもうしそうろう>。また手紙にその評を書いて送りましょう、の意。