江戸の嵐蘭に宛てた書簡。発信地は伊賀上野であろう。嵐蘭が江戸の近況を知らせてきて、彼の親戚が膳所にあるので知り合いになってはどうかという勧めをしたことへの謝礼が述べられている。
また、北鯤兄弟への心遣いなどもあり、芭蕉のやさしさが込められている書簡。
御老母様・御内・御子達御息災に御入被レ成候哉、承度奉レ存候:<ごろうぼさま・おうち・おこたちおんそくさいにおんいりなされそうろうや、うけたまわりたくぞんじたてまつりそうろう>と読む。御家族の皆さんはお元気でいらっしゃいますか、の意。
拙者旧冬甚寒殊外痛候へ共:<せっしゃきゅうとうはなはださむくことのほかいたみそうらえども>と読む。元禄3年の冬は寒く、持病が多く出たのである。
頃日は又々常之通に居申候間、定而当年中には懸二御目一に而可レ有二御座一候:<けいじつはまたまたつねづねのとおりにおりもうしそうろうかん、さだめてとうねんちゅうにはおめにかかるにてござあるべくそうろう>と読む。この頃は、大分良くなったので、ことしこそ是非お目にかかりたいものです、の意。
何とぞ何とぞ御堅固成様に被レ成、今一度再会御待可レ被レ下候:<・・ごけんごになるようになされ、いまいちどさいかいおまちくださるべくそうろう>と読む。
拙者も随分保養致候而懸二御目一度存候:<せっしゃもずいぶんほよういたしそうろうておめにかかりたくぞんじそうろう>と読む。私も、せいぜい健康に気をつけてお会いできるように頑張りたいと思います、の意。
北鯤子:<ほっこんし>と読む。江戸蕉門の人。『桃青門弟独吟廿歌仙』に登場する。弟は山店と号した。いずれも嵐蘭と親しかった。
定世事御くるしく可レ被レ成と、是又心をいたましめ候:<さだめてせじおくるしくなさるべくと、これまたこころを・・・>と読む。北鯤兄弟の勝手口が不如意であったか?
膳所御親類中へ被二仰遣一候由:<ぜぜごしんるいちゅうへおおせつかわせられそうろうよし>と読む。である。嵐蘭の親類が膳所に有って、そこへ芭蕉を紹介した旨の嵐蘭発の書簡があったのであろう。
御知人に御成可レ被レ成よし被レ入レ念候へ共:<おんしりびとにおなりなさるべきよしねんをいれられそうらえども>と読む。親しくするように取り計らっていただいたようですが・・・、の意。
尤為レ指用事も無二御座一候故、其通に致候:<もっともさしたるようじもござなくそうろうゆえ、そのとおりにいたしそうろう>と読む。膳所には、特にこれといった用事が無いため行かないでいました、の意。だから貴方の親戚にも顔を出していないのです、という意味が込められている。
若御袋様などへの咄にも成可レ申候はゞ、重而御めにかゝり、下り可レ申候:<もしおふくろさまなど・・はなしにもなりもうすべくそうらはば、かさねて・・、くだりもうすべくそうろう>と読む。(江戸へ帰ったとき)貴方のお母様への土産話にでもなりますのなら、おあいしてから江戸へ下向いたしましょう。