深川芭蕉庵から、曲水に宛てた借金申し込みの書簡。冒頭の一文「不悟之御無心申事出来致候」は実に差し迫っている。この時期芭蕉にとって金銭の必要性といえば猶子桃印の肺結核の重篤化が最も考えやすい。そのための医者代や薬代が必要になったということであろうか。この頃から芭蕉の身辺には死の影がひそかに忍び寄ってくるのだが・・・。
不悟之御無心申事出来致候:<ふごのごむしんもうすことしゅったいいたしそうろう>と読む。思いがけずお願い事が出現してしまいました、の意。
其元御遣金御用ノ餘御座候はゞ、一両弐分御取替被レ成被レ下候はゞ可レ忝候:<そこもとおつかいきんごようのあまりござそうらはば、1りょう2ぶおとりかえなされくださりそうらはばかたじなかるべくそうろう>と読む。貴方に手元に残っているお金がありましたら1両2分お貸し下さればありがたいのですが、の意。
少々難レ去内証のすくひ之事出来候故:<しょうしょうさりがたきないしょうのすくいのことしゅったいそうろうゆえ>。具体的にどのような内証事かは不明だが、急なことが起こった模様。
江戸むきのものには無心難レ申事故、御心底不レ看如レ此御座候:<えどむき・・むしんもうしがたきことゆえ、ごしんていみずかくのごとくござそうろう>。江戸の人には無心も出来ないので、貴方の気持ちも考えずにお願いする次第です、の意。江戸向きで最も金に縁のある人といえば杉風だが、なぜ杉風に頼まないのかは不明である。
少急事に御座候間、当分御取替可レ忝候:<すこしいそぐことにござそうろうあいだ、とうぶんおとりかえかたじけなかるべくそうろう>と読む。少し急ぐことですので、しばらくの間お借り致しますこともご承知下さい、の意。