この書簡には、下記のような木因添え状が付随して現存している。これと本文から分かるように、芭蕉・木因・素堂の三吟連句を巻いたこと、素堂が発句、木因が脇をつけ、芭蕉が第三句を付けたことなどが知られる。『七百五十韻<しちひゃくごじゅういん>』が評判がよかったことが文脈から分かる 。
今朝は* 芭蕉翁筆印 印
右手簡、予先年東武滞留之節、山口素堂陰士をとふに、あるじ発句あり、予脇あり、芭蕉見て第三あり、是を桃青清書して贈れり、其時の一簡なり。
木因大雅のおとづれを得て
秋とはゞよ詞はなくて江戸の隠 素堂
鯔*釣の賦に筆を棹 木因
鯒の子は酒乞ヒ蟹は月を見て 芭蕉
清書如レ此。本紙は赤坂金生山堯偏法印所望にて贈レ此。
白櫻下木因記 印 印
扨々御残多奉レ存候:<さてさておのこりおおくぞんじたてまつりそうろう>と読む。連句一巻を完成できなかったことを残念がっているのである。
むつかしく思召候はば御かえし可レ被レ成候 :<むつかしくおぼしめしそうらはばおかえしなさるべくそうろう>と読む。意にそわなかったらば、その旨返事を下さい、の意か?。
爰元にはや無レ御座候。其元より京へ可レ被レ仰遣候 :<ここもとに はやござなくそうろう。そこもとよりきょうへおおせつかわさるべくそうろう>。木因が、余分が有るかどうか芭蕉に訊ねたのかもしれないが、ここ江戸には残部は無いので直接京の版元に言って取り寄せるよう勧めている。この書がベストセラーであったことが分かる。。
明日御隙に御座候はば、朝之内にも御入来可レ被レ成候:<あすおひまにござそうらはば、あさのうちにごじゅらいなさるべくそうろう>と読む。明日時間があれば、午前中にお出かけください、の意。
尚なお短尺弍枚其角へあつらへ、明朝取に可レ被レ遣候 :<なおなおたんざくにまいきかくへあつらえ、みょうちょうとりにつかわさるべくそうろう>。短冊二枚は其角に注文しておいたので、明日の朝までには書いてお渡しできるでしょう。