福井藩士仲村闇指が福井に帰郷に際して求めてきた自画への芭蕉画讃句の揮毫、ならびに芭蕉の絵の贈呈のための書簡。芭蕉は許六の教えによって絵の腕前が上達の最中であり、また書きたくて仕方がなかったのであろう。
愈追付御立可レ被レ成候:,いよいよおっつけおたちなさるべくそうろう>と読む。参勤交代で藩主が福井に帰るについて、藩士の闇指もお供で帰藩するのである。
期二書音可レ得二芳情一候:<しょいんごしほうじょうをうべくそうろう>。福井に行ってしまったらもう会えないので、これからは手紙でご芳情を承りたい、の意。
墨画之義、児童之戯筆:芭蕉が書いた絵と、芭蕉が揮毫した闇指の絵への画讃のことですが、私の絵の方は少年の絵のようなものです。後述のように2枚書いて送ったので、一枚は誰か他人にお土産として遣うためだという。
被レ遣候山野の画:<つかわされそうろうさんやのえ>と読む。こちらが闇指が描いてきた絵のことで山野の絵だったのであろう。ただし、これに賛を入れるにふさわしい句が無い。
愚筆にも薄を画、無調法之至に存候:私の絵にも(あなたの絵と同様)ススキの絵が入っていてあまりよろしくない。
乍二慮外一下薄一段きりて御のけ被レ成候てはいかヾ可レ有二御座候哉:<りょがいながらしたのすすきいちだんきりておのけなされてはいかがござあるべきそうろうや>と読む。闇指の絵の下の方に描かれているススキの絵を切ってしまえという意味。「慮外ながら」と遠慮しているものの無礼な注文ではある。
薄有レ之候ても発句かひには成不レ申候:ススキがあっても発句を活かすことにはならないから、の意
山形計にてもさびて可レ為二珍重一哉と存:<やまがたばかりにてもさびてちんとうたるべきやとぞんじ>と読む。ススキを削除して山の絵ばかりになるとさびが表現されていいとおもいますよ。の意。
推参申候:あつかましい申し出ですが、の意。
風雅無二御間断一御修行可レ被レ成候:<ふうがごかんだんなくごしゅうぎょうなさるべくそうろう>。俳句について一生懸命勉強してください。
御連中様可レ然奉レ頼候:福井には北枝や沾圃など芭蕉門下の優秀な俳人が多かったので、闇指のような入門したばかりの若い者の面倒を見てもらいたいの意。御連中は御連衆のこと。
軒号之儀、追付跡より沾圃可二申達一候:<けんごうのぎ、おっつけあとよりせんぽにもうしたっすべくそうろう>。 あなたから依頼されていた軒号のことは、後日沾圃にお伝えしますので、彼から聞いてくださいの意。