木曽の桧傘、越の菅蓑ばかり: 木曽の檜傘は更科紀行のおりに手に入れたのだろう。ヒノキの皮でつくった傘。越の菅蓑は奥の細道の旅で北陸街道で手に入れたのであろう菅の葉を干して作った蓑のこと。
わが聞き知らぬ農談:イノシシの被害があり、また、うさぎに落花生畠を荒らされたのであろう。農民たちの話を聞くともなく聞いている芭蕉の姿が髣髴としてくる情景。 芭蕉は、若くして宮仕えをしているので農業を知らないようである。
罔両に是非をこらす:<もうりょうにぜひをこらす>と読む。「薄い影」の意で、ここでは自分の影法師のこと。ここでは、燈火を点した時できる自分の影と、しみじみ語り合っているという意味。
さるを、 つくしこうらさんのそうじょうは、かものかいなにがしがげんしにて、このたびらくにのぼりいましけるを、ある人をしてがくをこう。いとやすやすとふでをそめて、「 げんじゅうあん」の3もじをおくらるる。やがてそうあんのかたみとなしぬ。すべて、さんきょといい、たびねといい、さるうつわたくはうべくもなし。きそのひがさ、 こしのすがみのばかり、まくらのうえのはしらにかけたり。ひるはまれまれとぶらうひとびとにこころをうごかし、あるはみやもりのおきな、さとのおのこどもいりきたりて、「 いのししのいねくいあらし、うさぎのまめばたけにかよう」など、わがききしらぬのうだん、ひすでにやまのはにかかれば、よざしずかに、つきをまちてはかげを ともない、ともしびをとりてはもうりょうにぜひをこらす。