芭蕉db

幻住庵の記

(元禄3年4月6日〜7月23日 47歳)

(庵の位置と謂れ)

難聴者用読み下し文


 石山の奥*、岩間のうしろに山あり。国分山といふ。そのかみ国分寺の名を伝ふなるべし*。ふもとに細き流れを渡りて、翠微*に登ること三曲二百歩にして、八幡宮*たたせたまふ。神体は弥陀の尊像とかや。唯一の家*には甚だ忌むなることを、両部光をやはらげ、利益の塵を同じうしたまふも*、また貴し。日ごろは人の詣でざりければ、いとど神さび*、もの静かなるかたはらに、住み捨てし草の戸あり。蓬・根笹軒をかこみ、屋根もり壁おちて、狐狸ふしどを得たり。幻住庵といふ。あるじの僧なにがし*は、勇士菅沼氏曲水子*の叔父になんはべりしを、今は八年ばかり昔になりて、まさに幻住老人の名をのみ残せり。

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