消費者行動論 #3  2002/10/24

■メッセージ紹介

●市場が大きくなるにつれ,スーパーで何でも欲しいものが手に入る時代だけれど,逆に市場に対して消費者の知識がないため,「ラベルの取り換え」「賞味期限のひきのばし」などさまざまな問題がでてきているので,商品を買う時少し怖い気がする。企業と消費者の間の信用関係がだんだんなくなってきているんじゃないかと思った。

●消費者と生産者の距離がもっと近づくことができたら,互いの利益のためにも良いことだと思いました。企業側が消費者の顔を知ることも大事ですが,私たち消費者も企業側の顔を知ろうとすることが大切だと思いました。

●最近は生産者の名前を記した野菜とか販売されたりもして,そういうのは顔が見えるようにするためなのかなと思った。

●アメリカ人の生活を60億人がしたら・・・という大量消費社会の例があったが,なぜアメリカ人なのですか。アメリカ人は摂取エネルギーも世界一に近いくらいでしたが,食品以外の消費もすごいのですか。もし日本人が60億人いたら・・・と考えると地球はいくつ必要なのでしょう。
   →エコロジカル・フットプリントの考え方


■消費者と生産者との関係の大まかな歴史

▼自給自足
・生産者と消費者は同一
・生産地と消費地もあまり離れていない
※集団内での交換はあっても,家族のようなもの

▼分業の誕生
・分業=交換もしくは販売を前提として成立
・生産者と消費者は別人
・生産者:交換・販売を目的に,他人が消費するものを(消費者の必要に応じて)生産

▼市場(しじょう)生産の誕生
・消費者の注文が無い状態で生産し,市場に出す
・市場が小さければ生産者と消費者はほぼ対等
  ・お互いをよく知っている
  ・製品知識にあまり差がない

▼消費社会の誕生
・市場の拡大〜大量生産・大量消費時代
・生産者と消費者の距離が開く→お互いの顔が見えない
  市場生産=見えなくなった消費者相手の見込み生産
・需要の飽和→マーケティングの誕生
・生産者・販売者は巨大化(生産者の企業化,流通の拡大)
  →生産者と消費者は対等でなく生産者優位に

★「自由競争市場」の前提

(1)公正で自由な価格競争
(2)売手買手の完全な市場知識

 →いずれも不成立
   「操作する企業」と「操作される消費者」

  →消費者問題
  →消費者運動・消費者保護

▼大量消費社会の見直しへ
 ・環境問題:ごみ,資源・エネルギー,環境汚染など
  ※アメリカ人の生活を60億人がしたら地球が5個必要
   との計算あり

  →新しいライフスタイルの模索



■市場とマーケティング
●マーケティングとは
企業が行う財やサービスの販売を拡大するための活動

《参考》

マーケティングとは,価値を創造し,提供し,他の人々と交換することを通じて,個人やグループが必要とし欲求するものを獲得する社会的・経営的過程である。
(コトラー『マーケティング・マネジメント』プレジデント社,1996)


マーケティング(マネジメント)は,個人や組織の目的を満足させる交換を創出するためのアイデア,財,サービスの概念形成,価格設定,プロモーション,流通を企画し,実行する過程である。
(アメリカ・マーケティング協会,1985)


マーケティング marketing
大量生産と大量消費のメカニズムを円滑に回転させるために,財とサーヴィスの全流通過程を生産者あるいは流通機構の手中に管理する,企業経営の組織的活動。その基本は,消費者に対して財とサーヴィスを購入したいという欲望を起こさせることである。(以下略)
(『社会学小辞典』有斐閣,1997(新版))

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●市場の発展とマーケティング・コンセプトの変化
A.生産志向と製品志向の時代
・販売努力の不要な時代;いかに製品を供給するか

B.販売志向の時代
・大量生産された製品をいかに買わせるか

C.消費者志向と顧客志向のマーケティング
・消費者の望む製品を作る
・顧客満足を高める

D.リレーションシップ・マーケティング
・顧客との長期的な関係づくり
・双方向的なコミュニケーション

●市場細分化(マーケティング・セグメンテーション)戦略
消費者の欲求の多様化
→同じような欲求を持った消費者のグループをターゲットとして商品を開発し販売するのが効率的

●マーケティング・ミックス(4P)の構築
(1) 製品 product
(2) 価格 price
(3) 流通 place
(4) 販売促進 promotion

●ソーシャル・マーケティング
社会的な生活環境や自然環境の保護を考慮に入れたマーケティング



★消費者行動論:豊かな消費社会が前提
・貧しい時代は最低限の衣食住で精いっぱい
  →豊かな社会になってさまざまな消費者行動が出現
・販売拡大を目的とした消費者行動論
   =消費社会の善悪は問わない
    (消費拡大→経済発展→良い,という前提)
 ←→欲望の無限の拡大でなく,欲望のコントロールへ

「豊かな社会」についてのカトーナの整理

経済環境の5つの変化
  (1) 収入の増大
  (2) 貯蓄資産の増大
  (3) 信用販売(月賦・クレジット)の普及
  (4) 消費全体における非必需耐久財の
    占める比率の増大
  (5) マスコミによる経済情報の迅速な伝搬
消費者行動の3つの変化
  (1) 必需的・慣習的・契約的消費の減少
  (2) 自由裁量的支出の増大
  (3) 自由裁量的貯蓄・投資の増大


2.消費者行動の心理学

★消費者行動の心理学的研究の動機
  =マーケティングにおける必要が大きい
   《人はどうしてモノをほしがるのか?》
   ⇒《どうすれば売れるか?》


★心理学者レヴィンによる行動の一般的法則



2−1.問題解決としての購買意思決定

  購買意思決定は,一種の問題解決行為
   →問題解決過程として捉える

▼問題の認識
 ・現実の状態(初期状態) …例:空腹
 ・目標状態  …例:空腹が満たされた状態
  ……この2者のズレが大きいとき,問題が認識される

▼購買意思決定問題が認識されやすくなる条件
(1) 目標状態の水準(またはその知覚水準)の上昇
   …広告や知人の薦めなどによる欲求の増大
(2) 初期状態の水準(またはその知覚水準)の低下
   …現状への不満の増大

▼認識の状況
(1) ルーチン的問題解決 routine problem solving
   反復的な購買行動;想起される選択肢がひとつだけ
     例:いつも使っているものを切らした
(2) 限定的問題解決 limited problem solving
   製品についての知識があり,いくつかの選択肢が
   想起される
     例:コンビニで飲み物を買う
(3) 広範的問題解決 extensive problem solving
   製品についての学習を要する
     例:パソコンを買う
━━━━━━━━今回ここまで━━━━━━━━

▼問題認識のされ方
どのように問題を認識したかが意思決定に大きく影響

・問題認識の心理的構成による意思決定の変化
  =フレーミング効果
(問題A) 12500円のジャケットと1500円の電卓を購入しようとしたところ,自動車で20分かかる支店に行くと1500円の電卓が1000円で売られていることを知った。
(問題B) 12500円のジャケットと1500円の電卓を購入しようとしたところ,自動車で20分かかる支店に行くと12500円のジャケットが12000円で売られていることを知った。

・心理的財布:状況依存的な問題認識
  同じ商品に同じ金額を払った場合でも,満足感や
  心理的痛みが異なる

表:種々の心理的財布とそれらに対応する商品
(小嶋・赤松・濱,1983 を改変)
心理的財布の因子 対応する商品の例
ポケットマネー因子 頭痛薬,ビタミン剤,目薬,週刊誌,ガム,チョコレート,募金
生活必需品因子 冷蔵庫,洋服ダンス,洗濯機,カラーテレビ,外出着,ハンドバッグ,電子レンジ,家族旅行の費用,ルームクーラー,化粧品
財産因子 分譲土地,分譲マンション,建売住宅,自家用車,ピアノ
文化・教養因子 絵・彫刻の展覧会,音楽会,観劇,レコード,楽器,映画
外食因子 外食代,喫茶代
生活水準引き上げ因子 カセットテープレコーダー,電子レンジ,ルームクーラー,百科事典,8ミリカメラ,ピアノ
生活保障・安心因子 火災保険料,生命保険料,お中元・お歳暮
ちょっとぜいたく因子 ビデオデッキ,食器洗い機,乗用車
女性用品因子 装飾品,ハンドバッグ,外出着,化粧品



2−2.消費者の知覚

※知覚=心理学用語;
   外界の情報を五感を通じて入手し,意味づけすること
※ここでは特にマーケティング情報の知覚を扱う

▼知覚と情報処理過程


▼接触過程
・接触の選択的性質
  人は接触する刺激(*)のすべてを受容するわけではない。
  →接触の回避;例:テレビCM,ダイレクトメール

*刺激:心理学用語。人間の行動を,外界の刺激に対する反応として捉える。
▼注意過程
・刺激要因
  ・物理的特性:大きさ,色,音,動きなど
  ・認知的特性:孤立,対比,情報量など
  ・情緒的特性:子ども,動物,女性モデルなど
・個人要因
  個人的な興味,価値観,ニーズなどが注意に影響を与える
・環境要因
  時間の余裕,気候の快不快など

▼解釈過程
解釈=刺激に意味を割り当てること
・自動処理
  ・見慣れた刺激→自動的に処理
  ・見慣れない刺激→注意を働かせ意識的に処理
・理解レベル
  ・同じ商品を見ても理解のレベルによって受け取る意味が
   異なる
  ・深く理解された商品は,より強く記憶される



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