徒然草(下)

第237段 柳筥に据うる物は、縦様・横様、物によるべきにや。


 柳筥に据うる物は、縦様・横様、物によるべきにや*。「巻物などは、縦様に置きて、木の間より紙ひねりを通して*、結い附く。硯も、縦様に置きたる、筆転ばず、よし」と、三条右大臣殿仰せられき*

 勘解由小路の家の能書の人々は*、仮にも縦様に置かるゝ事なし。必ず、横様に据ゑられ侍りき。

柳筥に据うる物は、縦様・横様、物によるべきにや:<やないばこに すうるものは、たてさま・よこさま、ものによるべきにや>と読む。柳筥に載せるものとしては、縦置、横置は、物によるべきなのだろう?「柳筥」は、柳の細枝を編んだ箱。また、柳の木を細長く三角に削って寄せ並べ、生糸やこよりで編んだ蓋つきの箱。硯・墨・筆・短冊や冠などを納めた。後世、蓋の足を高くして台として用い、冠・経巻などをのせた。やないば。ここでは、このオープン型のものを言っているらしい。やなぎばこ、とも(『大字林』より)。

木の間より紙ひねりを通して:柳筥の木の隙間からこよりを通して結わえておく。

三条右大臣殿仰せられき:三条実重(1260〜1329)。ただし、内大臣で右大臣ではない。

勘解由小路の家の能書の人々は:<かでのこうじのいえののうじょのひとびとは>と読む。藤原行成の子孫の人たちの意。 行成(972〜1027)平安中期の公卿・書家。名は「こうぜい」とも。藤原伊尹(これただ)の孫。日本三蹟の一人で、その筆跡を歴任した権中納言・権大納言から権跡(ごんせき)という。和様書道の完成者で、世尊寺流の祖。日記に「権記」がある。遺墨「白氏詩巻」「本能寺切(ほんのうじぎれ)」など。(『大字林』)


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 やないばこにすうるものは、たてさま・よこさま、ものによるべきにや。「まきものなどは、たてさまにおきて、きのあわいよりかみひねりをとおして、ゆいつく。すずりも、たてさまにおきたる、ふでころばず、よし」と、さんじょうのうだいじんどのおおせられき。

 かでのこうじのいえののうじょのひとびとは、かりにもたてさまにおかるることなし。かならず、よこさまにすえられはんべりき。