徒然草(上)

第79段 何事も入りたゝぬさましたるぞよき。


 何事も入りたゝぬさましたるぞよき*。よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言ふ*。片田舎よりさし出でたる人こそ、万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ*。されば、世に恥づかしきかたもあれど*、自らもいみじと思へる気色、かたくななり*

 よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそ、いみじけれ*

何事も入りたゝぬさましたるぞよき:「入りたたぬ」は「入りたつ」の否定形。「入りたつ」は、入り込む、学問などに精通すること。よって、一文は、何事も精通していないというのがよい、あるいは精通しているような顔をしないのがよい、の意となる。

よき人は、知りたる事とて、さのみ知り顔にやは言:上品な人というものは、知っていることだからと言って、それほど知ったかぶったりはしない。

万の道に心得たるよしのさしいらへはすれ:「さしいらえ」は、「差し応え」で返事をする、応答するの意。一文は、田舎者ほど万事に心得たような受けこたえをすることがある、という意味になる。

世に恥づかしきかたもあれど:非常に自分が恥ずかしくなるほど優れた人もいるだろうが、。「世に恥ずかしき」の「世に」は「非常に恥ずかしい」と強める意味に使われる。

自らもいみじと思へる気色、かたくななり:自分でそれをすごいことだと思っているようなのは、見苦しいものだ。

問はぬ限りは言はぬこそ、いみじけれ:聞かれない限りは口を開かない、というのがすばらしいのだ。  。


 「よくわきまへたる道には、必ず口重く、問はぬ限りは言はぬこそ、いみじけれ」 。今どき、これでは世の中は渡れまいが。。。。


 なにごともいりたたぬさましたるぞよき。よきひとは、しりたることとて、さのみしりがおにやはいう。かたいなかよりさしいでたるひとこそ、よろずのみちにここ ろえたるよしのさしいらえはすれ。されば、よにはずかしきかたもあれど、みずからもいみじとおもえるけしき、かたくななり。

 よくわきまえたるみちには、かならずくちおもく、とわぬかぎりはいわぬこそ、いみじけれ。