徒然草(上)

第40段 因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、


 因幡国に*、何の入道とかやいふ者の娘*、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども*、この娘、たゞ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりれば、「かゝる異様の者、人に見ゆべきにあらず*」とて、親許さざりけり。

因幡国に:鳥取県に。

何の入道とかやいふ者の娘:何某という入道の娘がいた。「入道」は仏門に入りながら、在家にいるようなものについて言う接尾語。

かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども:美貌が優れていて、多くの男共が言い寄ったのだが。

かゝる異様の者、人に見ゆべきにあらず:このように変人は、お嫁にはやれない。この娘の両親はこう言って娘をお嫁に出さなかった。


誰から聞いてきた話なのか? 源氏物語の明石入道の話にひねりを加えたか??。


 いなばのくにに、なんのにゅうどうとかやいうもののむすめ、かたちよしとききて、ひとあまたいいわたりけれども、このむすめ、たゞ、くりをのみくいて、さらに、 よねのたぐいをくわざりれば、「かゝることようのもの、ひとにみゆべきにあらず」とて、おやゆるさざりけり。