21財団<産業情報山梨>誌6月号巻頭言原稿

 『ビッグバン』

 

 「ビッグバン」という言葉が大流行です.2001年この国の金融機関でビッグバンが大々的に始まるのだそうです.それを目指してこの春から準備が始まりました.「ビッグバン貸し渋りと見つけたり」などと週刊誌の川柳蘭で揶揄されたりもしています.
 この「ビッグバン」,もとをただせば宇宙創造の学説でした.今から100億年以上昔,この宇宙はおよそ1078個程の中性子からなっていました.それが突如大爆発を起こし,それと同時に時間やしたがって空間が生まれ,重力から解放された中性子を素材として,核崩壊・核融合・核分裂などを続けながら100種類に及ぶ元素がその中で創造され,それらが化学反応したり,進化したりしてこの大宇宙を作り上げたというのです.これが,早逝の天才ガモフの唱導したビッグバン学説ですが,今では金融制度改革「ビッグバン」の方がすっかり有名になってしまいました.
 中身のよく分からない「ビッグバン」ですが,これを要するに中性子ならぬ護送船団がバラバラにはじけることのようです.はじけた先の時間や空間は,世界標準(グローバルスタンダードと和製英語が使われています)という単一の仕切りで出来ているようで,しかもその仕切りは,ほとんどアメリカで生まれたデ・ファクトスタンダード(業界標準)でもあるようですから,そのような仕組みに不慣れな日本の金融機関はあらかたアメリカに乗っ取られてしまうのではないか,「日本売り」につながるのではないかと不安がられています.
こういう議論を見聞きしていると,今から140年前の黒船騒ぎもかくやと思われてきます.開国か攘夷か,佐幕か勤皇かと,喧しい声が今また巷にあふれています.
 この国の近代130年史は一体なんだったのかとその不毛を歎きたくもなります.130年とまで言わなくても,1989年東西冷戦が終結したとき,今日の事態が来ることは容易に想像できました.それなのに爾来10年間,こぞってバブルに手を染めていたというのは一体どういう神経なのでしょう.

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