方丈記

流布本による補充

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現代語訳


 

 ほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし*。命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身を浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず*。一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり*、生涯の望みは、をりをりの美景に残れり*


おほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし:一体全体、遁世して、仏門に入ってからというもの、人への恨みや、生きていくことへの恐怖も消えた。
まだしとせず何かが不足だと不満を持つこともない、の意。
うたたねの枕の上にきはまり:昼寝の睡眠の間のようなもの。一瞬に過ぎていくこと。
をりをりの美景に残れり:折々に見る美しい景色だけが、生きる楽しみとして残っているのみだ。

  おかた、よをのがれ、みをすてしより、うらみもなく、おそれもなし。いのちはてんうんにまかせて、おしまず、いとわず。みをうきぐもになずらへて、たのまず、まだしとせず。いちごのたのしみは、うたたねのまくらのうえにきわまり、しょうがいののぞみは、おりおりのびけいにのこれり。
 

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現代語訳

   このようにして、遁世し、出家してからというもの、他人への恨みも消え、生きていくことの恐れも無くなった。命は天にまかせ、それを愛しむことも無いかわりに、生きていることを嫌悪する心も失せた。身は浮雲のように思うことにして、期待せず、不足とも思わない。一生の楽しみは、畢竟、昼寝のようなものに過ぎず、さればこそ望むものと言ったら、日々に美しい景色を眺めることだけとなった。