徒然草(下)

第213段 御前の火炉に火を置く時は、


 御前の火炉に火を置く時は、火箸して挟む事なし*。土器より直ちに移すべし。されば、転び落ちぬやうに心得て、炭を積むべきなり*

 八幡の御幸に*、供奉の人、浄衣を着て*、手にて炭をさゝれければ、或有職の人、「白き物を着たる日は、火箸を用ゐる、苦しからず」と申されけり。

御前の火炉に火を置く時は、火箸して挟む事なし:天皇や上皇など高貴な方の火鉢に炭をつぐ時は、火箸で取らないこと。

されば、転び落ちぬやうに心得て、炭を積むべきなり:だから、炭壷を傾けたときに、中の炭が全部落っこちてくることが無いように丁寧に積んでおくべきだ。

八幡の御幸に:八幡は石清水八幡のこと。

浄衣を着て:狩衣の白装束。


 TPOを心得るのは難しい。


 ごぜんのかろにひをおくときは、ひばししてはさむことなし。かわらけよりただちにうつすべし。されば、ころびおちぬようにこころえて、すみをつむべきなり。

 やわたのごこうに、ぐぶの人、じょうえをきて、てにてすみをさされければ、あるゆうそくのひと、「しろきものをきたるひは、ひばしをもちいる、くるしからず」ともうされけり。