徒然草(上)

第96段 めなもみといふ草あり。


 めなもみといふ草あり*。くちばみに螫されたる人*、かの草を揉みて付けぬれば、即ち癒ゆとなん*。見知りて置くべし*

めなもみといふ草あり:やぶたばこ」のこと。キク科の越年草。山林に生え、高さ60〜90センチ。全体に強い臭気がある。根から出る葉は大きくタバコの葉に似る。茎には長楕円形の葉が互生する。8〜10月、黄色の花を下向きにつける。実を駆虫薬に用いる。いのしりぐさ(『大字林』より)。

くちばみに螫されたる人:「くちばみ」はマムシのこと。「螫されたる<さされたる>」は噛みつかれた、の意。

即ち癒ゆとなん:すぐに癒えるという。

見知りて置くべし:ヤブタバコについて見て確認しておくとよい。


 この時代の人々にとって、極めて必要な情報であったろうが、ここに書かれているところを見るとあまり知られていなかったのだろうか?


 めなもみといふくさあり。くちばみにささされたるひと、かのくさをもみてつけぬれば、すなわちいゆとなん。みしりておくべし。