徒然草(上)

第78段  今様の事どもの珍しきを 、言ひ広め、


 今様の事どもの珍しきを、言ひ広め、もてなすこそ、またうけられね*。世にこと古りたるまで知らぬ人は、心にくし*

 いまさらの人などのある時*、こゝもとに言ひつけたることぐさ*、物の名など、心得たるどち*、片端言ひ交し、目見合はせ、笑ひなどして*、心知らぬ人に心得ず思はする事*、世慣れず、よからぬ人の必ずある事なり*

今様の事どもの珍しきを、

-言ひ広め、もてなすこそ、またうけられね :「今様の事ども」とは、最近の評判の話題の事と思われる。それを言いふらし、むやみに騒ぐことなどは、どうもお受け入れ難い。

世にこと古りたるまで知らぬ人は、心にくし:かえって、そういうことを知らない人の方が、私には心にくいまでに感ずるよ。

いまさらの人などのある時:「いまさら」は今、更に来た人、の意 で、新参者のこと。

こゝもとに言ひつけたることぐさ、物の名など、:自分たちにだけ分かる事柄や、物の名前。

心得たるどち:「どち」は「同士」。知っているもの仲間。

片端言ひ交し、目見合はせ、笑ひなどして:ジャーゴンを使い、目配せして、笑ったりなどして、要するに自分たちだけに分かる話をして。

心知らぬ人に心得ず思はする事:事情を飲み込めない人に、自分が心得ないと思わせること 。

よからぬ人の必ずある事なり:無教養な人たちの必ずすることである。


コミュニティ論とも、コミュニケーション論とも取れる話。具体的にはこの種の問題が何かあったのかどうか?


 いまようのことどものめずらしきを、いいひろめ、もてなすこそ、またうけられね。よにことふりたるまでしらぬひとは、こころにくし。

 いまさらのひとなどのあるとき、ここもとにいいつけたることぐさ、もののななど、こころえたるどち、かたはしいいかわし、めみあわせ、わらいなどして、こころしらぬひとにこころえずおもわすること、よなれず、よからぬひとのかならずあることなり。