徒然草(上)

第77段 世中に、その比、人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事


 世中に、その比、人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事*、いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて*、人にも語り聞かせ、問ひ聞きたるこそ、うけられね*。ことに、片ほとりなる聖法師などぞ*、世の人の上は、我が如く尋ね聞き、いかでかばかりは知りけんと覚ゆるまで、言ひ散らすめる*

人のもてあつかひぐさに言ひ合へる事:人が囁くうわさ話。

いろふべきにはあらぬ人の、よく案内知りて:「いろうべき にはあらぬ」は無縁であるべき人、の意。関係ないのに、それなのによく事情を知っている。

うけられね:承服できない。

片ほとりなる聖法師などぞ:田舎住まいの隠遁生活者などが特に、。

言ひ散らすめる:しゃべり散らしているようだ。


 人事に関心を持ち過ぎるということのわずらわしさは、現代でいえばゴシップ専門の週刊誌の類に相当するのであろうか。誰と誰が結婚したの、離婚したの、皇室がどうの、こうの、などなど。


 よのなかに、そのころ、ひとのもてあつかいぐさにいいあえること、いろうべきにはあらぬひとの、よくあんないしりて、ひとにもかたりきかせ、といききたるこそ、うけられね。ことに、かたほとりなるひじりほうしなどぞ、よのひとのうえは、わがごとくたずねきき、いかでかばかりはしりけんとおぼゆるまで、いいちらすめる。