徒然草(上)

第72段 賤しげなる物、居たるあたりに調度の多き。


 賤しげなる物*、居たるあたりに調度の多き*。硯に筆の多き*。持仏堂に仏の多き*。前栽に石・草木の多き*。家の内に子孫の多き*。人にあひて詞の多き*。願文に作善多く書き載せたる*

 多くて見苦しからぬは、文車の文*。塵塚の塵*

賤しげなる物:下品な感じを与えるものの列挙。 

硯に筆の多き:弘法は筆を選ばず、と言うか。

居たるあたりに調度の多き:座っている周りに道具類がむやみに多いこと。(思わず筆写は書斎の周りを見渡して、冷や汗を かき、かつ反省している。)

持仏堂に仏の多き:持仏堂<じぶつどう>は、日常にお祈りをする室。ここにむやみと仏像が安置されているのは信仰のずさんさかコレクション趣味に過ぎないとみなされる。

前栽に石・草木の多き:ごてごてして悪趣味となる。第十段参照。

家の内に子孫の多き:子沢山は良いと思うが、世捨て人には賎しく見えたのであろう。

人にあひて詞の多き:ゴマすりだの、言い訳だの、お世辞だのばかり。

願文に作善多く書き載せたる:神仏への祈願文を願文と言い、これに神仏を買収すべくさまざまなメニューを書き込むこと、いかにも偽善的に見える。

文車の文:「文車<ふみぐるま>」は書物などを運搬するリアカー風のキャスター。

塵塚の塵:「塵塚<ちりづか>」はゴミ捨て場。


 兼好法師の卓抜たるユーモアのセンス!!


 いやしげなるもの、いたるあたりにちょうどのおおき。すずりにふでのおおき。じぶつどうにほとけのおおき。せんざいにいし・くさきのおおき。いえのうちにこうまごのおおき。ひとにあいてことばのおおき。がんもんにさぜんおおくかきのせたる。

 おおくてみぐるしからぬは、ふみぐるまのふみ。ちりづかのちり。