徒然草(上)

第37段 朝夕、隔てなく馴れたる人の


 朝夕、隔てなく馴れたる人の*、ともある時*、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ*、「今更、かくやは*」など言ふ人もありぬべけれど、なほ、げにげにしく、よき人かなとぞ覚ゆる*

 疎き人の、うちとけたる事など言ひたる、また、よしと思ひつきぬべし*

朝夕、隔てなく馴れたる人の:日常的に、慣れ親しんでいる人。ここは女性。

ともある時:ふとした時。

我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ:私に気 配りして、改まった身なりなどしているように見えるとき程、。

今更、かくやは:何を今さら。どうしてそんな他人行儀な態度をとるのですか?の意。

げにげにしく、よき人かなとぞ覚ゆる:「げにげにしく」は 、「実に実にしく」で肯定的に使われて「実がある」の意。真実味があってよい人だと思う。

よしと思ひつきぬべし:よい人だということに気づかされるであろう。  


他者とのコミュニケーションについて


 あさゆう、へだてなくなれたるひとの、ともあるとき、われにここおき、ひきつくろへるさまにみゆるこそ、「いまさら、かくやは」などいうひともありぬべけれど、なほ、げにげにしく、よきひとかなとぞおぼゆる。

 うときひとの、うちとけたることなどいいたる、また、よしとおもいつきぬべし。