徒然草(上)

第36段 久しくおとづれぬ比、


 「久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと*、我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地するに*、女の方より、『仕丁やある。ひとり』*など言ひおこせたるこそ*、ありがたく*、うれしけれ。さる心ざましたる人ぞよき*」と人の申し侍りし、さもあるべき事なり。

 

久しくおとづれぬ比、いかばかり恨むらんと:しばらく訪ねなかったので、さぞや女は怒っていることであろうと。。 。

我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地するに:自分の無沙汰が思い知らされて、申し開きも出来ないでいるときに。

仕丁やある。ひとり:仕丁は律令制で、成年の男子に課せられた力役 <りきやく>。50戸ごとに2人が割り当てられ、3年交替で諸官庁で労役に服させた。してい。つかえのよぼろ。また、平安時代以降、貴族の家などで、雑役に従事した下男も仕丁という(『大字林』より)。本文は、女が 、男の来ないことを詰る代わりに「仕丁を一人探してくださらない?」と言ってきて、非難しないことを言う。

言ひおこせたるこそ:言って寄こす 。

ありがたく滅多に無いこと。 現代語との相違に注意。

さる心ざましたる人ぞよき:「心ざま」は心の様子、気立て。こういう人がよい。


 これは随分と具体的な女性との関係を匂わせているようだが。


 「ひさしくおとづれぬころ、いかばかりうらむらんと、わがおこたりおもいしられて、ことのはなきここちするに、おんなのかたより、『じちょうやある。ひとり』などいいおこせたるこそ、ありがたく、うれしけれ。さるこころざましたるひとぞよき」とひとのもうしは んべりし、さもあるべきことなり。