徒然草(上)

第28段 諒闇の年ばかり、あはれなることはあらじ 。


 諒闇の年ばかり、あはれなることはあらじ*

 倚廬の御所のさまなど*、板敷を下げ、葦の御簾を掛けて、布の帽額あらあらしく*、御調度どもおろそかに、皆人の装束・太刀・平緒まで*、異様なるぞゆ ゝしき。

諒闇の年ばかり、あはれなることはあらじ:<りょうあんのとし>。天皇が父母の喪に服す一年間ほど、さみしいことはない。

倚廬の御所のさまなど:倚廬の御所<いろの ごしょ>とは、諒闇の年に天皇が住む仮屋。

板敷を下げ、葦の御簾を掛けて、布の帽額あらあらしく:「倚廬の御所」は他の宮殿より一段板敷きを下げた。御簾も竹から葦の粗末なものに付け替えた。「布の帽額<ぬののもこう>とは、御簾の最上部に横に引いた幕が着いているがこれをくすんだ色彩のものに換えるので、荒々しいといったのであろう。

皆人の装束・太刀・平緒まで:この一年間、宮中のスタッフは装束もグレーを基調にした地味な服装とし、太刀も漆を塗って黒くし、太刀に付けた飾りである平緒まで灰色の飾りとした。このような平生と異なる様子は厳粛な思いがするというのである。 「ゆゆし」は「忌忌し」で神聖で恐れ多いの意。


諒闇の一年の様子の記録


 りょうあんのとしばかり、あわれなることはあらじ。

 いろのごしょのさまなど、いたじきをさげ、あしのみすをかけて、ぬののもこうあらあらしく、おんちょうどどもおろそかに、みなひとのしょうぞく・たち・ひらおまで、 ことようなるぞゆゆしき。