徒然草(上)

第27段 御国譲りの節会行はれて


 御国譲りの節会行はれて*、剣・璽・内侍所渡し奉らるゝほどこそ*、限りなう心ぼそけれ。

 新院の、おりゐさせ給ひての春*、詠ませ給ひけるとかや。

殿守のとものみやつこよそにして掃はぬ庭に花ぞ散りしく

 今の世のこと繁きにまぎれて、院には参る人もなきぞさびしげなる*。かゝる折にぞ、人の心もあらはれぬべき。

御国譲りの節会行はれて:別名「譲位の節会」。天皇の代替わりの祝宴。

剣・璽・内侍所渡し奉らるるほどこそ:三種の神器を新帝のもとに移すこと。「剣」は草薙の剣、「璽」は 八坂瓊勾玉、「内侍所」は別名で八咫鏡を指す。これらを新天皇に渡した旧帝はなんとも寂しいであろう。

新院の、おりゐさせ給ひての春:ここに書かれている新院は花園上皇の文保2(1318)年2月26日の代替わりで後醍醐天皇に譲位した話であろう。

今の世のこと繁きにまぎれて、院には参る人もなきぞさびしげなる:「今の世」は新天皇または新天皇の国事にかかる政務。それにまぎれて新院のことが放置されてしまっている寂しさ。


 めでたいはずの天皇の代替わりだが、何時でも何処でもあるように、権力の交代は去る者をして悲しませているのであろう。それこそが「無常」なのだが、ここでは兼好は本気でそれを寂しがっている。


 みくにゆずりのせちえおこなわれて、けん・じ・ないしどころわたしたてまつらるるほどこそ、 かぎりのうこころぼそけれ。
 しんいんの、おりいさせたまいてのはる、よませたまいけるとかや。

 「とのもりのとものみやつこよそにしてはらわぬにわにはなぞちりしく」

 いまのよのことしげきにまぎれて、いんにはまいるひともなきぞさびしげなる。かかるおりにぞ、ひとの こころもあらわれぬべき。