(財)山梨県21世紀産業開発機構
『産業情報山梨』
理由は数え切れないほどありますが,一つだけ筆者の考えを述べておきましょう.日本の産業構造は,フルセット産業構造でした.戦後,ちっぽけな部品一つひとつに至るまですべて国内で調達できる完備な体系を作り上げてきました.それが強い国際競争力をもたらし,その結果円高を招来してしまいました.円高は空洞化を招き,生産システムの分散化を推し進めました.双子の赤字に悩んだ競争相手の米国は
こういう見通しの中で,本県を含む中央内陸圏をモデル地域として世界的な情報基盤整備を図るべく中央コリドー高速通信実験プロジェクト(以下
ネットワークの種類
ことの必要上少し技術的な話が先行します.技術の中でもコンピュータやネットワーク技術というのは分かりづらいというのが定説です.社内にこれが分かる人が一人も居ないというような企業では,疾風怒涛のビッグバンを通過してなお生き延びることは殆ど不可能です.人材の手当てを始めることをまずお勧めしておきます.
私たちの身の回りにはネットワークが無数にあります.まず
ネットワークとしては他にも沢山有ります.近ごろはやりの携帯電話や
ネットワークの相互接続
このように普段気づきませんが,私たちの身の回りには実に多くのネットワークができています.しかし,これらのうちの多くはそれぞれが孤立して使われていて,相互に結び合わされることはありませんでした.インターネットのように,ネットワークが結び合わされることで大変な効果が現れることを考えると,孤立しているネットワークをうまく結び合わせられたら大層有益であろうと誰しも考えることでしょう.
ところが,これがそう簡単ではありません.それぞれのネットワークはそれぞれの通信規約(プロトコル)を持っています.また,物理的な性質が異なっていて雑音に強かったり弱かったり,伝送帯域も上述のように区々です.だから,これらを串刺しにしてネットワークを相互接続するのはそう簡単なことではありません.
インターネットは,そのことを実現しているのですが,それはインターネットの回線が通信業者の所有している殆ど特性の均一なネットワークだからできるのです.それなら,インターネットを強化すればよさそうなものですが,これもそうはいかないのです.たとえば東京
そこで考えらるのが,既存のネットワークをマルチメディア伝送路として再利用することです.既存のネットワークの既存のサービスはそのままにして,付加的機能だけを新たにつけて,これらのネットワークを横断的にシームレスに接続してマルチメディアネットワークとして使い,その間にマルチメディア技術を開発し,人々のリテラシーを涵養しようというわけです.しかし,これが上述のように難しいのですが,最近になって既存のネットワークの機能を拡張するプロトコルが新たに世界標準として提案されるようになってきました.たとえば,
シームレス通信の考え方
こうして
こうすることで,低廉なネットワークが構築できます.しかし,問題は,この
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このネットワークは,欧米やアジアなど海外の主要なネットワークとも接続される予定です.そのときには,国内で設計した図面がそのまま東南アジアの工場に送られて生産されたり,部品の調達をアジアで行ったりすることが容易にできます.相手先の工場が,たとえば
最近は,ネットワークコラボレーションシステムを使ってシステム開発や設計をアウトソーシングすることも簡単にできます.労働力の安い国や地域に才能のあるパートナーを見つけて,かれらと協働で開発や生産が可能になります.
長野では,冬季オリンピックの名場面をビデオオンディマンド(
他方,山梨県では県情報政策課などが主宰してサテライトスクール構想を提案していますが,残念ながらそれ以外には見るべき具体的な提案がありません.本誌上をお借りして活発な提案を募集したいと思います.
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県内産業停滞の原因
広帯域で世界的な広がりを持ったネットワーク基盤が確立された時,産業はどのように変っていくのでしょうか.わけても山梨県の産業はどのように変っていくのでしょうか.
山梨県は,初期の段階ではインターネットの普及は順調で,いい滑り出しをしました.これは山梨大学や県工業技術センター,サンテクノカレッジなど若い人たちの草の根の活動によるものでした.しかし,これが大きなうねりにはなりえませんでした.教育機関や行政指導団体の指導力の不足も考えられますが,経営層の意識の低さが主因だと筆者は見ています.情報化の時代は,過去の延長上にあるのではなく,不連続な前線の通過する時代であることを肝に銘じておかなくてはなりません.
パラダイムの転換を
明治近代が訪れた時,甲州人の多くは可れん誅求の徳川が去って再び武田家の時代が来ると喜びました.だから官軍に従軍して会津戦争に参戦し,多くの死者を出しました.こういうのをアナクロニズムと言います.
しかし,その中にあって横浜に新時代を発見し,これからは灯かりと乗り物だと宣言して電力会社を興したり,汽車を走らせたり,船会社を興したり,化学肥料会社を設立したりした人々も居ました.そういう人々は,その後のこの国の近代化に確実に足跡を残しました.こういう事態は信州でも同様です.諏訪の製糸産業は近代化の旗手でしたし,それが没落していくと精密加工産業を興し,確実に時代のトレンドに棹差してきた歴史と経験を有しています.
今の時代は,かつて甲州財閥という新興経済勢力が日本の近代を構築したあの時代と同質の大きなメガトレンドの時代に匹敵します.近代というパラダイムが終焉を迎え,情報化という新たな価値観が支配する新パラダイム時代へと相転移を起しているからです.
こういう変化の時代は,甲州人には得意の時代なのではないかと思います.たしかに,その芽かもしれないと思われる企業や個人が少なからず居ます.ベンチャーと呼ばれる起業家マインドを持った一群の人々がいます.
そのために,
情報通信関連産業は,昨年の総生産
その結果,ネットワークではいまや世界三流とは言いませんが,二流に甘んじていることは否めません.飛行場が貧しいとローカル飛行場としてトランシット路線に落ちぶれるように,ネットワークもハブにならなければサブネットに落ち込みます.そこではノードを経過する回数が増えるためパケットの廃棄がしばしば起こり,遅延が生じてシーケンシャルな情報は途切れます.ネットワークはハイアラーキーの高いところに位置するのが勝です.
ネットワーク時代は大きな可能性を秘めた大航海時代でもあります.勇躍,大海原に出るか,風を失って失速するか,企業家マインドが試される時代です.
補遺