21財団<産業情報山梨>誌8月号巻頭言原稿

 『インターネットはビッグバン』(前編)

 

 インターネットのプロトコル(通信規約)をTCP/IPといいます.このうちIPは宅急便によく似ています.IPは荷物を入れる段ボール箱でTCPはその中身です.宅急便が送り届けるのは中身だけでよいのですが,これが露出していると中身が汚れてしまいますから,用心のために箱に入れます.そうはいっても段ボール箱にも重要な情報が書き込まれています.宛先と荷主の名前,それに注意項目などです.宅急便は宛先を見て配送の経路を決定します.また,中身の性質を見て要冷蔵・天地無用・手鍵無用などを判断します.IPプロトコルはまさにこれと同じで,アドレス表現・経路選択・サービス品質などを規約化しています.他方,TCPは情報の中身の開け方が書いてあり,品質が悪ければどういう風にしてよくするか、ここではじめて信頼性をソフトウェアとして記述しています.
 IPは,情報の中身の開け方やましてその使い方などに責任を持ちません.冷凍の魚を配送する場合でも,魚ではなく魚の入っている段ボール箱を早く宛先に届ければよいのです.極端な言い方をすれば中身が腐っていても荷主の指示通りの時間と温度を守っていれば役割は果たされたのです.こういう通信形態をベストエフォートと言います.最善の努力を図ったが結果には責任を持たないと言うことです.
 インターネットは,このベストエフォートの上に成功しました.情報の中身である
TCPを開いてから,中身が腐っているか否かを調べ,中身が腐っていれば送り主に再送させるのですが,宅急便たるIPには何も言いません.こういうやり方をエンド・エンド通信と言いますが,通信技術者には屈辱的です.ある種の技術無視がここにはあるからです.そのことがこの国のインターネットを遅らせてしまいました.インターネットは,かっての通信事業者や技術者にとって大ビッグバンだったのです.(この項つづく)

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