中央コリドー高速通信実験プロジェクト

朝日新聞「地域通信」

1997.10.29

ベトナム戦争で一敗地にまみれた米国の70年代後半,全米ヒットチャートにジョン・デンバーの「カントリーロード」がランクされました.折しもアメリカは双子の赤字に悩まされ,さしものパックスアメリカーナに赤信号が点っていました.「…田舎道が私を家に連れていってくれる・…」.自信を喪失したアメリカ人の心にこの歌は深く染み入りました.こうして故郷に帰った人々は,ロッキーの森の精気に励まされて,先端技術とソフトウェア産業を興しアメリカ経済に奇跡の再生をもたらしました.

あれから15年,この国もバブル後遺症と財政赤字に悩まされ,大きな時代の節目を迎えました.アメリカ再生の故事にならうなら,日本人も「カントリーロード」を伝って故郷の森に帰らなくてはなりません.その田舎道に沿って,いま「中央コリドー高速通信」のための光ファイバを敷設する取り組みが始まっています.

東京・山梨・長野に超高速の情報スーパーハイウェイを結び,これにメディア変換機能を持つATM交換機を介して,公衆回線はもちろんのことこの地域が日本一の加入率を誇るCATV網や有線放送電話網,防災行政無線網を結びつけ,ここにインターネットや各種通信サービスを継ぎ目無しにつないでいこうというワンネットワークアクセスシームレス通信構想です.この構想の実現のために産学官で協議会を設立し,技術開発やサービス内容の検討をいま精力的に進めています.

かつて上りの汽車で都会に出ていった人々が疲れて故郷に帰ってくる.やがて森の精気に癒されて,今一度情報産業を興す,そのためのインフラづくり,日本版NNI(ナショナルインフォーメーションインフラストラクチャ)が中央コリドー高速通信実験の目標です.