芭蕉db

雪丸げ

(貞亨3年冬 43歳)


 曾良*何某は、このあたりに近く、仮に居をしめて、朝な夕なに訪ひつ訪はる。我がくひ物いとなむ時は、柴折りくぶる助けとなり、茶を煮る夜は、来たりて軒をたたく。性隠閑を好む人にて、交り金を断つ*。ある夜、雪を訪はれて、

               ばせを

きみ火をたけよき物見せん雪丸げ

(きみひをたけ よきものみせん ゆきまるげ)


文集へ 年表へ


きみ火をたけよき物見せん雪丸げ

 ここに「雪丸げ」とは、雪をころがして丸めて大きな玉にしたもの。子供の遊び、雪だるまの原形と考えればよい。「雪まろげ」ともいう。子供遊びの雪丸げを持ち出すことで、曾良の来訪を喜ぶ弾んだ想いが表出されている。雪国でなく伊賀上野出身の芭蕉にしてみれば雪は、童心にかえってはしゃぎたくなる景物であったのかもしれない。それにしても、来客に火を焚かせて、いい歳の主が雪丸げを作っているという姿は主客が転倒して面白い。また、字余りが、即興性を感じさせて、突然噴出した新鮮な悦びをよく表現している。