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分別なしに戀にしかゝる 去來
浅茅生におもしろけつく伏見わき 先師先師都より野坡がかたへの文に、此句をかき出し、此邊の作者いまだ是の甘味をはなれず*。そこもとずいぶん軽みをとり失ふべからずと也*。
- 「分別なしに戀にしかゝる」教訓的に、分別もなく恋などに夢中になるから、の意。これに対して芭蕉の付「浅茅生におもしろけつく伏見わき」は、
源等の歌「 浅茅生の小野のしのはら忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき」から引用して、京都伏見の奥の雑草の生えたようなわびしい場所での侘住まいも恋のためとあらば結構楽しいことに気がつく、といった意味。去来の句は、その前に「 朝の月起々 たばこ五六ぷく」朝早く目が覚めてタバコを5、6服も吹かしてしまう。これは分別なしに恋をして、昨夜の恋を思い出してタバコに紛らわせているからと受けたのである。 - 先師都より野坡がかたへの文に、此句をかき出し、此邊の作者いまだ是の甘味をはなれず :
この部分を引用して江戸の野坡に芭蕉は手紙を書いて、上方の俳人たちはまだ王朝的甘味から離れられないようです、と書き送った。 - そこもとずいぶん軽みをとり失ふべからずと也:
あなたは軽みから離れてはいけませんよ、と注意した、という。