芭蕉db

杖突坂の落馬

(元禄2年:46歳)

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  さや*よりおそろしき髭など生たる飛脚めきたるおのこ同船しけるに、折々舟人ヲねめいかるに興さめて、山々のけしきうしなふ心地し侍る。漸々桑名に付て、処々駕に乗馬にておふ程、杖つき坂引のばすとて、荷鞍うちかへりて馬より落ぬ。ひとりたびのわびしさも哀増て、やゝ起あがれば、まばなの乗てや、まごにはしかられて、

かちならば杖つき坂を落馬哉

( かちならば つえつきざかを らくばかな)

終に季の言葉いらず。

初春の状も、此事書進じ候。もようおかしきゆへなり


笈の小文』で帰郷の折、杖突坂で落馬した話は本文にも書かれていた。また、土芳の『横日記』にも同文のものがある。