俳諧書留

大石田、高野平右衞門亭ニテ

目次

奥の細道大石田へ 立石寺へ


初折表六句

     大石田、高野平右衞門亭ニテ

 

五月雨を集て凉し最上川    翁 発句

岸にほたるつなぐ舟杭    一榮 脇句

爪畠いざよふ空に影待て   ソラ 第三

里をむかひに桑の細道    川水 平句

しの子に心慰む夕間暮    一榮

水雲重しふところの吟     翁

初折裏十二句

佗笠を枕にたてゝ山颪    川水

松むすびをく國の境め    ソラ

永樂の舊き寺領を戴て     翁

夢とあハする大鷹の紙    一榮

たき物の名を曉とかこちたる ソラ

爪紅うつる双六の石     川水

卷揚る簾にちごの這入て   一榮

煩ふ人に告る秋風       翁

水かハる井手の月こそ哀なれ 川水  

碪打とて撰ミ出さる     ソラ  

名残ノ折表十二句

花の後花を織する花莚    一榮

ねハんいとなむ山陰の塔   川水

穢多村はうき世の外の春富て  翁

刀狩する甲斐の一亂     ソラ

八重葎人も通らぬ關所    川水

もの書度に削る松の風     一榮

星祭ル髪は白毛のかるゝ迄  ソラ

集に遊女の名をとむる月    翁

鹿苗にもらふもおかしぬり足駄 一榮

柴賣に出て家路忘るゝ     川水

ねむた咲木陰を晝のかげろいに 翁

たえだえならす万日のかね   ソラ

名残ノ折の裏六句

古里の友かと跡をふりかへし  川水

ことば論する船の乘合     一榮

雪みぞれ師走の市の名殘とて  ソラ

煤掃の日を草庵の客       翁

無人をふるき懐紙にかぞへられ 一榮

やまめがらすもまよふ入逢   川水

平包明日も越べき峯の花     翁

山田の種を祝ふ村雨      ソラ  挙句