俳諧書留

越後路

目次

奥の細道越後路へ 金沢へ


   直江津にて

文月や六日も常の夜には似ず     ばせを

露をのせたる桐の一葉     石塚喜衞門左栗

朝霧に食燒烟立分て          曾良

蜑の小舟をはせ上る磯       聽信寺眠鴎

烏啼むかふに山を見ざりけり   石塚善四郎此竹

松の木間より續く供やり      同源助布嚢

夕嵐庭吹拂ふ石の塵        佐藤元仙右雪

たらい取卷賤が行水           筆

思ひかけぬ筧をつたふ鳥一ッ      左栗

きぬぎぬの場に起もなをらず      曾良

數々に恨の品の指つぎて        義年

鏡に移す我がわらひがほ         翁

あけはなれあさ氣ハ月の色薄く     左栗

鹿引て來る犬のにくさよ        右雪

きぬたうつすべさへ知らぬ墨衣     眠鴎

たつた二人の山本の庵         左粟

華の吟其まゝ暮て星かぞふ       義年

蝶の羽おしむ蝋燭の影         右雪

春雨は髪剃兒の泪にて         芭蕉

香は色々に人々の文          曾良

   同所

星今宵師に駒ひいてとゞめたし     右雪

色香バしき初苅の米          曾良

瀑水躍に急ぐ布つぎて          翁

   餞別

行月をとゞめかねたる兎哉       此竹

七夕や又も往還の水方深く       左栗

   細川春庵亭にて

藥欄にいづれの花をくさ枕        翁

荻のすだれをあげかける月       棟雪

爐けぶりの夕を秋のいぶせくて  鈴木與兵へ更也

馬乘ぬけし高藪の下          曾良

   七夕

荒海や佐渡に横たふ天河         翁

   西濱

小鯛さす柳凉しや海士がつま       同