深川芭蕉庵から、宛先不明の書簡の断片。いよいよ最後の帰郷の旅の出発日を知らせる手紙であり、その最初の予定は5月6日であったことが知られる。
六日に立可レ申と存候:<むいかにたちもうすべくとぞんじそうろう>と読む。江戸を立つのが6日の予定であったことがわかる。実際には11日に延期された。
いまだ持病も聢々無二御座候一間、八日九(日)にも成可レ申候や:<いまだじびょうもしかじかござなくそうろうあいだ、ようかここのかにもなりもうすべくそうろうや>と読む。持病の胆石も今はどうということもないので、8・9日になるかもしれません、の意。
此外に御無心之事も御座候はヾ、重而御左右可二申上一候間、左様に御意得被レ成可レ被レ下候:<このほかにごむしんのこともござそうらはば、かさねておんそうもうしあぐべくそうろうあいだ、さようにおこころえなされくださるべくそうろう>と読む。「無心」はお金の工面で、旅費に充てるのであろう。こういう工面は杉風に対してしたであろうから、この書簡の受取人は杉風である可能性が高い。借金についてはまた後刻お願いするであろう、というのである。
繪印之事則調申候:<えいんのことすなわちととのえもうしそうろう>と読む。「繪印」は落款(絵の作者の署名のための判子)のこと。落款を早く作りたいということか。