京都嵯峨の落柿舎から下京に住む支考に宛てた書簡。現存する支考宛の唯一の芭蕉書簡である。支考からの手紙と贈り物に対する謝辞と駄洒落で親しさを表している。支考と芭蕉の間の気の置けない師弟関係が見えてほほえましい。
二種被レ懸二芳情一、旅店之一徳、珎重不レ浅賞翫申候:<にしゅほうじょうにかけられ、りょてんのいっとく、ちんちょうあさからずしょうがんもうしそうろう>。2種は何と何かは不明だが、支考が二種類の何かを送ってくれたのであろう。それが旅の空のこととてありがたく賞玩しているというのである。
今日去来きせるの掃除:去来はタバコ嫌いで、煙草を吸う人を好まなかったのは有名。その去来が今日は煙管の掃除をしている、これは去来一世の出来事だというのだが、勿論冗談。時は閏五月、この時期の季題に煙管の掃除を入れようというのである。
折節に貴僧初音信:ちょうど今日貴僧からも便りがあったので、支考の手紙というのも閏五月の季題にしようというのである。あるいは支考は筆不精で、その手紙が珍しかったのかもしれない。
与風此間存知出し候には、去歳武府脚半わすれ候:<ふとこのかんぞんじいだしそうろうには、きょさいぶふきゃはんわすれそうろう>。ここで思い出したことがあります。昨年の今ごろ江戸で脚半を忘れたことがあります、の意。だから脚半についてもこの時期の季題としましょう、と追伸にまでふざけた。よほど気分がよかったのであろうか。