『笈日記』より

十日
此暮より身ほとをりてつねにあらず。人々殊の外におどろく。夜に入て去来をめして良談ず。その後支考をめして、遺書三通をしたゝめしむ。外に一通はみづからかきて伊賀の兄の名残におくらる。その後は正秀あづかりて、木曽塚の舊草にかへる。
是より後、十六日の夜、曲翠亭に會して、おのおのひらき見るに、伊賀への文はたゞ何事もなくて、先だち給へる事のあさましうおぼゆるよし、かへすがへす申残されしなり。
外の三通には、思ひをける形見の品々、おほくは反古・文章等の所有、なつかしき人々への永き別をおしめるなりけり。

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支考の『笈日記』より抜書きした。