断簡。
桃印の病状の一進一退を故郷の兄一家に知らせる手紙。病状は緩和しているようだが、回復の希望はない事が文面から見えてくる。桃印に近い親族が居る久居にも知らせるなという内密な知らせ。
二十二日之書状認置候へ共、御屋敷まで遠方故差留置候処:<にじゅうににちのしょじょうしたためおきそうらえども、おやしきまでえんぽうゆえさしどめおきそうろうところ>と読む。22日に手紙を書いたのだが、藤堂家上屋敷(神田佐久間町)がここからは遠いので手元に置いたままにしてあった。
長兵衛殿御内衆御出候間、追而書申上候:長兵衛様の御家来が来られたので、追ってこの手紙は書き上げましょう、の意 だが、意味不明。22日の手紙を届けなかったことと、長兵衛の家来が来たことの関係が分からない。ただし、長兵衛は藤堂長兵衛・玄虎で藤堂家重鎮。
つヾき申候はヾ何とぞとりとめ申度:これは甥の桃印の病状の事。今病状は小康状態であるので、この状態が続くのであれば一命を取り留められるかもしれないのだが、の意。
先久ゐへはさたなしに仕候:久居には秘密にしておいてもらいたい、の意。知らせればみんなが心配するだけで、心配しても何の益もないから、というのである。芭蕉の思い遣り。ところで、久居は桃印の父方の親族の住む場所。桃印の母、芭蕉の長姉の婚家がここにあったらしい。
いかていにに行候共、急には申遺申まじく候:桃印の病状が進んで如何なる体に悪くなっても、すぐには久居に伝えることはしない、の意。
其元へも段々には申二進之一まじく候間:久居へと同様に半左衛門宅にもすぐには知らせない、のでそのおつもりで、の意。
およしにも右之通御よみきかせ被レ遊可被レ下レ候:<・・みぎのとおりおよみきかせあそばされくださるべくそうろう>。およしにもそういうことだとこの手紙を読んで聞かせてください、の意 。「およし」は芭蕉の末娘。文面からは彼女が文盲だったことを意味するが? 子供のない半左衛門夫婦はおよしに家督を相続させた。