(年不明 孟夏10日付)
元禄3年4月10日付けとされる『古河わたり』所収書簡。怒誰宛の芭蕉書簡と言われているが 他説もあって定かではない。ただ、荘子に詳しい怒誰宛であること、しかも漢文調の文体と荘子の記述はこの二人で交わされる書簡の特徴であって、いかにももっともらしい。 幻住庵から至近に住む怒誰宛と考えて間違い無いのであろう。なお、書簡中の句はここにしかないものである。
栃木県鹿沼市鹿沼市銀座2丁目の書簡碑(贈:高野則義さん)
芳情精神不レ滞不レ恥不レ恐、大道自然之對談、誠に不レ安事共に御座候 :<ほうじょうせいしんとどこおらず、はじず、おそれず、だいどうじねんのたいだん、まことにやすからざることどもにござそうろう>と読む。ご芳情まことにありがたく、交わされた対話も実に楽しく有意義で、こんな事はそう安易に出来るものではありません。あなたと私は一心同体です。おそらく、この近い日に二人は会って、荘子の話で大に盛り上がったのであろう。
筆の心殊之外よろしく:<ふでのしんことのほかよろしく>:頂いた筆は大変品質の良いもので、の意。
筆人大道之筆意令二工作一候物と感心仕候:<ひつじんだいどうのひついこうさくせしめそうろうものとかんしんつかまつりそうろう>と読む。筆と人が一体となるような優秀な筆を工作させてくださって、殊のほか感動しております。